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2012/04/23 『スパイス、爆薬、医薬品』(本の紹介41)

今回紹介するのは、『スパイス、爆薬、医薬品 ―世界史を変えた17の化学物質』(P. ルクーター・J. バーレサン著, 小林力訳, 中央公論社, \2730, 2011/11)という本です。本書の原題は、「ナポレオンのボタン」という日本人にはちょっとわかりにくいものです。ナポレオン軍がロシア侵攻に失敗したのは、錫(すず)製のボタンを使用していたためという説があります。錫という金属は低温で脆くなるため、極寒のロシアで軍用コートの前ボタンが使用できなくなってしまったという話です。



本書は、化学物質から見た世界史の本で、歴史に疎い理系の方にお勧めかもしれません。一方で、随所に化学構造式が登場するので、化学嫌いの方はパラパラとページをめくった段階で尻込みしてしまうかもしれませんが、化学的な記述の部分を読み飛ばしても楽しめると思います。もちろん、化学好きな方は、じっくりと構造・活性相関などを楽しむことができるでしょう。本書で取り上げられている化学物質は多岐に渡っており、食品関連だけででも、胡椒、ナツメグ、グローブ、アスコルビン酸、グルコース、オレイン酸、塩といったものが登場します。今日ではありふれたこれらの物質が、社会を大きく変えてきたことがわかります。以下に本書の目次をあげておきますが、各章のタイトルは魅力的です。

  • 1章 胡椒、ナツメグ、クローブ 大航海時代を開いた分子
  • 2章 アスコルビン酸 豪州がポルトガル語にならなかったわけ
  • 3章 グルコース アメリカ奴隷制を生んだ甘い味
  • 4章 セルロース 産業革命を起こした綿繊維
  • 5章 ニトロ化合物 国を破壊し山を動かす爆薬
  • 6章 シルクとナイロン 無上の交易品とその合成代用品
  • 7章 フェノール 医療現場の革命とプラスチックの時代
  • 8章 イソプレン 社会を根底から変えた奇妙な物質
  • 9章 染料 近代化学工業を生んだ華やかな分子
  • 10章 医学の革命 アスピリン、サルファ剤、ペニシリン
  • 11章 避妊薬 女性の社会進出を後押しした錠剤
  • 12章 魔術の分子 幻想と悲劇を生んだ天然毒
  • 13章 モルヒネ、ニコチン、カフェイン 阿片戦争と三つの快楽分子
  • 14章 オレイン酸 黄金の西欧文明の神話的日常品
  • 15章 塩 社会の仕組みを形作った人類の必須サプリメント
  • 16章 有機塩素化合物 便利と快適を求めた代償
  • 17章 マラリアvs.人類 キニーネ、DDT、変異ヘモグロビン

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